3月12日

本人が語る認知症

2025年には高齢者の5人にひとりがなるといわれる認知症。「親がなったらどうしよう」「もし自分が認知症になったら・・・」など、“なんとなく怖いもの”として不安を抱いている人が多いかもしれません。番組では、認知症のご本人をスタジオに招き、世間のイメージと現実とのギャップを本音で語ってもらいました。
キーワードは認知症の人の「語り」です。まず大切なのは、認知症の本人どうしでの語り合い。家族にも言えない悩みや、日々の困りごとを解消する知恵を共有することで、症状が悪化せずに済んでいるという人たちをご紹介しました。また、認知症の症状が進んで話すことができなくなったとしても、周囲にいる「語れる認知症の人」がその人の気持ちを代弁することで、よりよい介護につながった現場も取材。さらに、本人の行動をとことん見つめることで、その背景にある本音を探り当てる自治体の取り組みについても紹介しました。
本人の声によって大きく変わりつつある、認知症の今についてお伝えしました。

家族にも言えない思い 本人どうしで語り合う

長崎県佐世保市では月に一度、認知症の本人どうしが語る会が開かれています。主催するのは認知症の本人である福田人志さん。目的は、本人どうしでないと共感が得られにくい困りごとを共有したり、家族には遠慮して言えない本音を素直に吐き出したりすることです。実はこの「本人どうしの語り合い」は今、認知症と診断された直後、気持ちの落ち込みなどによって引き起こされる状態の低下を防ぐ鍵として注目されています。こうした本人どうしの語り合いの場は、「本人ミーティング」という名称で2017年度から全国各地で開かれています。会で出た意見は、行政の施策に反映されるなど、本人の声を生かす取り組みが広がっています。

認知症の本人の声で 周囲の誤解が解消

認知症の本人・福田さんは、週に一回、近所のデイサービスにボランティアで通っています。目的は、自分では語ることのできなくなった認知症の人の思いを代弁すること。利用者の中に、季節を問わず厚着をしている男性がいました。介護スタッフは、だらだらと汗をかいていても厚着を続ける男性の服を脱がそうとしますが、男性はかたくなに拒否。そこで福田さんは、自身も同じ行動をしていたと明かした上で「厚着をするのは寒いからではなく、不安だから」ということをスタッフに伝えました。介護スタッフは教科書どおりではない、行動の背後にある本人の気持ちに気がつき、介護観が変わったと言います。このように、一見「困った行動」には何かしら理由が存在する。「なぜそうするのか」という視点を持って接することが大切であると、認知症の専門医も指摘していました。

本人の行動パターンを知り 生活の質に結びつける

一方、自分で思いを語ることもなく、福田さんのような代弁者も近くにいない場合は、どんなアプローチの方法があるのか。和歌山県御坊市では、日々市民や事業所から寄せられる介護の悩みに対して、福祉課の職員が訪問して共に解決策を探っています。
たとえば、家族からの「認知症が疑われる80代の夫の運転をやめさせたい」という相談。職員が男性についていくと、かつての仕事場でひとり、夕方まで座って過ごしていました。元大工であった男性のために「役割」を作ろうと、職員は、デイサービスでいすや看板を作る仕事を依頼。その結果、生き生きとデイサービスに通い、ひとりで運転して仕事場に向かうことはなくなりました。専門家はこのケースに関して「本人の行動パターンを知ることが大事」と話し、家族が、認知症本人の行動の理由に思いをはせて容認し、ある程度のところからは医師や介護福祉士などプロの手に任せることが、本人らしい生活を維持することにつながると話していました。

専門家ゲスト:福田人志さん(認知症当事者)、松本一生さん(認知症専門医)
ゲスト:ミッツ・マングローブさん、柴田理恵さん
リポーター:雨宮萌香アナウンサー