2012年04月28日放送放送内容まるわかり!

『えっ!クレヨンしんちゃんが...
        商標は誰のもの?』

3月、人気漫画「クレヨンしんちゃん」の商標権・著作権をめぐる裁判の判決が中国であり、日本の出版社に著作権が認められました。

巨大市場中国では商標をめぐる争いは年々激化。アップルやエルメスなど世界的な企業も中国に進出しようとする際、トラブルに巻き込まれています。

知的財産を重視する姿勢を強めているという中国。日本はどう対応していけばいいのか深読みしました。

今週の出演者

専門家
馬場錬成さん(科学ジャーナリスト)
森永正裕さん(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
加藤青延(NHK解説委員)
ゲスト
桂文珍さん(落語家)
山田まりやさん(タレント)

世界40か国で人気のクレヨンしんちゃんが、ある騒動に巻き込まれています。クレヨンしんちゃんの出版社が8年前、中国でキャラクターグッズを販売しようとしたところ、まったく関係のない企業がすでにイラストなどを商標登録していることがわかったんです。
出版社は中国の裁判所に提訴。先月の判決では日本の出版社の言い分を認め、中国の企業に対し、キャラクターの使用停止と損害賠償の支払いを命じました。

他にも、中国で勝手に商標登録されているものです。

アニメのキャラクターから人名、会社名も・・・


まずはクレヨンしんちゃんのいきさつから。

プレゼンテーション①
クレヨンしんちゃんのキャラクターとロゴは誰のもの?

クレヨンしんちゃんを出している出版社です。

かつて台湾で出版していた時のロゴがこちら。「ラオビーシャオシン」と読みます。

2004年、中国のアパレル会社と正式に契約を結んで、キャラクター入りのセーターを販売しようと考えました。

ところが、上海のデパートで販売しようとすると、地元の役所から「 売っちゃダメ。中国のルールでは偽物になります」と言われたんです。

実は同じデパートで、すでにしんちゃんのイラストとロゴが入った靴が売られていました。しかも、このキャラクターとロゴは中国で1997年に商標登録されていたんです。


〈山田さん〉そもそも作者が日本の方で、日本人が日本で作ったものじゃないですか。日本のものではないとなってしまうことが基本的におかしいんじゃないですか。


日本の出版社は中国の裁判所に提訴しました。

日本の出版社の主張

「作者がかいた時点で著作権という権利が発生しているはず。著作権は出版社も持っている。あなた方は著作権もないのに何を言っているんですか」

中国の企業の主張

「私たちが"商標権"を持っている。商標権というのは早い者勝ちで、私たちの方が先に名前とかロゴを登録した」

確かに商標権の登録が早い者勝ちというのは日本も中国も一緒。
裁判所も当初「中国企業のやっていることは中国の正規の手続きでズルはしていません。問題はない」と言っていました。
しかも、商標を申し出てから5年3か月の間「ちょっと待った」と言うことができるのに、申し立てをしてこなかった。今さら文句を言うのはおかしいと中国企業は主張しました。

そして3月に出た判決は「著作権の侵害を認めます」。つまり中国企業は著作権を侵害しているから商標権を主張するのは無効ですという結論になりました。

中国の裁判所が日本の出版社の著作権を認めたということ自体が画期的という声もありますが、一方でそれで喜んでいいのかという意見もあります。 実は中国には、しんちゃんの名前を使った商標登録が、わかっているだけで50種類以上もあるんです。

今回の裁判で勝ったのはこちらのロゴとイラストの「著作権の侵害」。
でも「蠟筆小新」という固有名詞使っただけの商標登録が著作権侵害にはなるかどうかは難しいと見られています。

また、まゆ毛の太さが違うなど場合によってはオリジナルだと主張されることもあるといいます。


〈森永さん〉著作権と商標権 違いは?著作権というのは作品を作った人の権利。ものを書いた、絵を描いた、音楽を作った、その時点で成立します。
商標権は、自分がブランドの名前を作って国に認められるもの。届け出て初めて認められるものです。

〈小野アナウンサー〉そもそも商標権を許可した時点で、著作権に違反してないのかなというチェックはないんですか。

〈馬場さん〉今回の判決は国際的にも常識的1997年のことなので、チェックはおそらくなかったと思います。本来はやるべきことなんですけれど中国の商標局も知らなかったんじゃないかと思います。
今回のしんちゃんの問題で8年かかって出てきた結論というのは国際的にも法的にも常識になってきているんです。ただ、中国だから画期的と言われているだけで。

〈森永さん〉早い者勝ちの商標権商標権が早い者勝ちというのは「先願主義」といって、これも国際的な共通ルールです。日本も例外でありません。商標というのは、まだ誰も登録してなければ、先に届け出た人が権利を持つものです。

〈文珍さん〉落語家でその名前に届かない芸なのに襲名をするっていうのがあるんですよ。こんな大きな名前をこんな小さくする人もいるんですけど...。前もって大きな名前を登録しておけばその人が襲名したいと言った時に「俺が権利を持っている」とか言って、幾ばくかで売ってあげるよなんていうようなことが成立するんでしょうか。

〈馬場さん〉理屈上は成立しますよ。商標登録しておけば。
特に中国ではビジネスに日本よりもスピード感があって、商標とか知的財産権というのは「先にやった方が勝ち」というゲリラ的なビジネスとなっています。

〈加藤解説委員〉世界の工場から、市場へ昔は中国は物を売る場所じゃなくて物を作る場所だったんです。中国で物を売って儲けようという人もいなかった。だから商標登録するなんていうことまで頭がいかなかったんです。それがものすごい市場になったときにこれはお金儲けのチャンスだと。その変化のスピードが速く、様々な問題が今起きているということだと思います。

〈馬場さん〉商標登録の変化かつてはブランド名をまねる"なりすまし"が主流でしたが、今は"先取り"が多いんです。これから人気が出そうなものなどをあらかじめ商標登録する。クレヨンしんちゃんもそれですね。


"先取り"にはこんな例もあります。
アップル社のiPad。アップル社が発表する遥か前から中国ではIPADっていうパソコンがもうできていて商標登録済みだったんです。今裁判になっています。

ちなみに、iPadに似た名前、AからZまで全部の"PAD"がもうおさえられています。

日本が困っているのが「地域ブランド」の商標登録。中国で「有田焼」が登録されてしまいました。組合が異議申し立てをしましたが、認められませんでした。
このため、中国に持っていくときには「有田焼」と名乗れません。今「有田磁器」という名前で申請中だということです。

そのほかにも「越光米(コシヒカリ)」、「秋葉原」なども登録済みです。


〈森永さん〉ビジネスとしての商標登録例えば将来駅ができて発展するだろうとみられる場所があったとして「あいている土地があります。将来必ず高く売れます」と言われたときに買いたいと思いますよね。それを買って将来、高くなった時に売ることは法律的には別に問題ないわけです。中国では人気の出そうな商標をどんどん取って売ろうとするブローカーが多くいて、彼らは感覚的にやっぱりそういう感じなんですよ。

〈加藤解説委員〉地名も技術も中国が発祥中国にすると、もともと自分たちのものだという感覚もあります。地名で言うと、東京だって昔、中国に東京という地名があったわけですから、むしろ日本の方がパクリだと思っているかもしれないわけです。そもそも有田焼も朝鮮半島から伝わってきた焼き物ですが、源流は中国の景徳鎮。つまり、自分たちが作った焼き物の文化が流れていってできたと。

〈馬場さん〉商標争いは中国だけではない中国で日本の有名な商標が先取りされていると言いますが、中国の有名な景勝地の名前を日本の大手企業が先に商標登録している例もあります。「武夷山」という福建省にある、世界遺産に登録されるような有名な山の名前が日本の特許庁に登録されています。武夷山というのは人名でもあります。そうすると中国だけではないということになります。

〈森永さん〉企業も自衛策が必要企業の自営策としてフェイスブックの例があります。これから中国に進出しようと考えた時に、いくつもの中国名を考えて商標の出願をしています。進出を見越して登録だけは先にしようとしているわけです。中国で商売しようと思ったら、とにかく他の人が出すより前に先に商標を出すというのが常識です。

〈馬場さん〉あらゆることを考えて防衛していないと何をやられるかわからない。例えばあるメーカーは会社の名前を登録する時に、一緒にこんな商標も取っています。 会社名をひっくり返すと・・・

〈文珍さん〉例えば短歌の本歌取りのように、パロディーを楽しもうというような文化が片方にはあって、もう片方には商標を早く押さえた者勝ちというビジネスのシビアな世界があるわけですか。

〈山田さん〉でも、汗水流して一生懸命やってきた人が作ってきたものを、なんとなく横取りしているような気がしますが。

〈加藤解説委員〉知的財産大国へと舵を切った中国こうした商標権や知的財産権という考え方は中国ではなく、もともと欧米が先に考え出したシステムなんです。中国は長い歴史の中で、羅針盤でも火薬でも鷹揚に皆に分け与えてきました。

ところが、90年代に中国が実際にDVDプレーヤーを作ってアメリカで売り出すと特許権侵害でお金をガバッと取られました。 これが転機となって知的財産を重視するようになってきたのです。2005年の温家宝首相の言葉が象徴的です。今までは守りだったけどこれからは攻めだと変わってきたんです。


プレゼンテーション②
中国が知的財産大国に!

中国は国として知的財産を重視する戦略を立てています。どんどん取っていきましょうと。

知的財産には商標以外にも"特許"などがあります。今、中国では企業が特許を取るとお金がもらえたり、減税されたりします。特許の一部"実用新案"も同じように奨励されています。

特許というのは発明に対して与えられます。例えば有名なのは、主婦のアイデアで出来たという洗濯機の糸クズを取る機械。これは特許をとっています。

これを使いやすくするために輪を作ってぶら下げるとか、洗濯槽の上に引っ掛けるというアイデアで改良したというのは実用新案です。

国を挙げて奨励しているので、今中国はどの分野見ても特許と実用新案だらけという状態です。

これから企業が進出しようとするとどういうことが起きるか。実際あったケースご紹介します。

電気のブレーカーを世界各国で売ってきたフランスの会社。

13億人いる中国でも商売しようと販売を始めて2年が経ったある日、中国のある企業が言いました。「おたくの技術の中の一部、うちの実用新案を侵害しています」と。

これに対し、フランスの会社は「他の国ではトラブルにはなっていません。そもそも業界内では誰でも知っている技術。実用新案ではないでしょう」と主張しました。

実用新案というのはものすごく数が多くなっていて全部調べようとしても調べきれないという事情もあります。しかし裁判の判決では中国の企業に軍配が上がりました。
なんとその損害賠償の金額は・・・

それでも、この会社は和解金を払って中国で商売をしています。しかもこうしたトラブルが相次いでいても中国に進出する企業は増え続けているということなんです。


〈加藤解説委員〉巨大な市場の魅力46億円と言っても13億人で割ったら3円とか4円。これから先、その10倍20倍の利益があり得るわけです。だから中国に入ってくる企業が増えていく。あんなところ危険だからやめなさいとは誰も思わないわけですよ。いくつか「チャイナリスク」があって地雷を踏んじゃうこともあるんだけども、それでも行ったほうが得だよという理屈ですね。

〈小野アナウンサー〉こんなに実用新案や特許が無数にあったら、中国の人だって、自分が会社起こして何か物を作ろうというときには、足かせがものすごくあるということですよね。

〈森永さん〉知的財産の訴訟は急増訴訟件数で見てもアメリカはかつて訴訟大国と言われましたけども、今、中国の訴訟がもう爆発的に増えている。これは知的財産権に関する訴訟だけでもうなぎ上りなんですけれども、統計によれば9割方は中国企業同士の裁判です。件数はだいたい日本の100倍です。

〈馬場さん〉中国進出の中小企業に支援を商標・特許・実用新案は出しておかないと。属国主義といって中国で権利を持っていないとマネされても何も言えないルールなんです。お金のある大企業はいいが、中小ベンチャー企業はお金があまり潤沢じゃないので、公的な機関で少し補助するなどの対策が必要だと思います。

〈文珍さん〉それぞれの国で訴訟ばかりやっているよりも、グローバルスタンダードとかいうのがあるんだったら、グローバルルールっていうのがあって、それをその構築していくっていうことができないものなんですかね。

〈馬場さん〉進む?国際共通特許それは将来的にはあると思います。例えば特許を出願するのに、今は各国で審査しているわけですけれども同じ技術を別々の国でそれぞれがやっているので非常に効率が悪いと。だから一つの技術について国際機関あるいはある国が特許として認めたら、他の国も認めましょうと。そういう世界共通特許という概念が出てきて、日本の特許庁も国際的に進めようと主導しています。

〈加藤解説委員〉企業の意識を高める必要今は偽物とか、マネをするような格好の商標登録などが問題になっているが、これから先は本当に技術でいろんな特許を取ってくる可能性がある。だから中国と商売する以上、商標、特許というのは常に頭の中に入れながらやっていかないと。せっかく日本で研究費かけて開発しても中国が先にやっている可能性がある、そういう時代になってくると思います。


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