2014年09月20日放送放送内容まるわかり!

いま何が... "イスラム国"勢力拡大のワケ

欧米のジャーナリストやNGO活動家を殺害、その映像をインターネットで公開するなど残虐性の高さで注目を集める"イスラム国"。 イラクやシリアで急速に勢力を広げるイスラム過激派組織です。 組織の壊滅をめざしアメリカは空爆を拡大する方針ですが、報復による新たなテロの可能性も指摘されています。 なぜイスラム過激派組織による脅威はなくならないのか?"イスラム国"の内実とは?日本への影響とは?とことん深読みします。

今週の出演者

専門家

常岡 浩介さん(フリージャーナリスト)
池内 恵さん(東京大学先端科学技術研究センター 准教授)
出川 展恒(NHK解説委員)

 

ゲスト

グッチ裕三さん(エンターテイナー)
藤本 美貴さん(歌手・タレント)


中山 アナウンサー
戦闘員の数が3万人を超えたとも言われているイスラム過激派組織の"イスラム国"。

英語にすれば「Islamic State」=「イスラム教の」「国」。
彼らは「国である」と言っている。3か月ほど前に国家樹立宣言も行っているんです。

旗を見ると、「アラーのほかに神はなし」という意味のアラビア語。

アラー(神)を信じるイスラム教。大きく宗派が二つに分かれていてスンニ派の人たちのための国を作ったと言っているんです。
でも、実態はどうなのか? 国家として成立するためには、条件が必要です。

「領土がある。国民がいる。統治機構があること。」
"イスラム国"はどうなっているのか?
まず、領土。

彼らが言うには、イラク、シリアの一部にまたがるピンク色の部分がわれわれの領土である。

その領土には、戦闘員の他に、一般の人もいて、こうした人たちがイスラム国の国民であると言っているわけなんです。

もうひとつ彼らの主張として、統治機構、つまり国を治める機関や組織があると言っています。

トップには最高主導者。バクダディという名前の人です。

最高主導者のもとに評議会があり、戦争省などの省庁があり、地域には知事もおかれていて、裁判所、学校、銀行も運営をしているというんです。

戦闘員には給料や家族手当が支払われ、住宅も支給。

一般の人たちには食べ物を支給し、母子家庭には生活保護のようなこともしていると言っている。
でも、どうしてこんなことをしているのか?
実は"イスラム国"には目指していることがあるんです。

「かつてヨーロッパ人が勝手に引いた国境を破壊し、イスラム教のひとつの国を作り上げる。そして領土を拡大して世界を"イスラム国"にする。それがイスラム教の教えである」と主張しているんです。

そのイスラム教の教えですが、ムハンマドが神から預かった言葉をまとめた聖典コーランに、こんな言葉があるんです。

"ジハード"。よく「聖戦」なんて訳されることがありますが、調べてみると「アラー、つまり神のために奮闘し努力すること」を"ジハード"と呼ぶそうなんです。
でも、"イスラム国"の人たちは、「戦う」という部分をかなり強調して解釈を行っている。
その解釈に基づいて、こうしたことが行われているんです。

アラーの教えに従わなければ、異教徒たちは迫害してもいい。
実際にイラク北部で、ヤジディ教という宗教を信じる住民500人が虐殺され、女性は奴隷として売られたといいます。

アラーの教えに従わないのであれば、処刑。
アメリカ人やイギリス人の人質にとられた方だけではなく、イスラム教徒であっても、教えに反すれば公開処刑。
金曜日毎週行われているというんです。

アラーの教えを広めるために、武力で町を制圧し、略奪してお金を儲けることも許されると解釈。
実際に銀行や油田を襲って、一日一億円以上のお金を儲けて、人々にお金や食べ物を支給しているというわけなんです。
でも、本当にイスラム教の教えはこういうものなのか?国内にいるイスラム教徒の10数人の方にお話を聞いてきました。
すると、「"イスラム国"の解釈はおかしい」「"イスラム国"は完全に悪である」と、皆さんおっしゃっていたんです。

当然、世界の国々も"イスラム国"の存在を認めていません。

だからこそ国であると言おうがなんだろうが、"イスラム国"は国ではない。
単なる過激派組織、テロリスト集団なんです。
ですが今、世界中から"イスラム国"を目指す動きが問題になっている。

アメリカから100人、イギリスから500、フランスから900人などなど...。
80か国、1万5000人が戦闘員として参加していると見られているんです。

小野 アナウンサー
先週まで"イスラム国"に取材に行かれていた常岡さん。
どんな状況なんですか?

常岡 さん
国を作ろうとしているという報道があるから、そういうものを期待して行ったんですけれども、司令官同士の連絡がうまくいっていなかったり、かなりガタガタという印象を持ちました。

小野 アナウンサー
なんで、わざわざ世界各国から"イスラム国"を目指す人たちがいるんですか?

常岡 さん
イスラム国"が目指している国づくりというのは、世界中のあらゆるイスラム教徒の一部には、相当影響があるみたいです。
"イスラム国"が考えているようなイスラムの解釈をする一派は13世紀からあることはある。
ただ、その中でも"イスラム国"に反対する人たちも相当います。

小野 アナウンサー
どういう人たちが"イスラム国"に向かっているんですか?

常岡 さん
今回一週間弱で17か国ぐらいの人と会ったんですが、大きく分けて、まず周辺のアラブの諸国の人たちで、 "イスラム国"の理念に賛成しているスンニ派の人たち。
もうひとつが旧ソ連、中国といった地域の人たち。
旧ソ連のウズベキスタンとか中国でイスラム勢力に対する弾圧が非常に激しくて、生き延びるために難民化して"イスラム国"に来ているような人たちがかなりいました。
もうひとつがヨーロッパから来ている人たち。これはヨーロッパに移民した二世、三世の人たちですね。ドイツで生まれ育ってドイツで教育も受けているけれども、話を聞くと、そこで毎日のように嫌がらせを受け続けているとかネオナチの集団に襲撃されたとか。
あるいはドイツの諜報機関にずっと尾行されているとかですね。
家族と話し合って、イスラム教徒はイスラムの国を作ってそこで生きていくべきだと決めてやって来たという人もいました。
現地であった"イスラム国"の戦闘員のインタビューです。
パレスチナからの移民の二世で、ドイツで生まれ育って、理工学部を出たエンジニアの人です。

ドイツ人戦闘員のインタビュー

「イスラム教徒はいたる所で攻撃されています。欧米に資源を奪われ、心を操られています。ジハードはここに正義と秩序をもたらすための戦いなのです。」

常岡 さん
彼らの場合、もともとアフリカのマリで戦おうと思っていたら、なぜかシリアに行くはめになったという話をしていて「戦うところはどこでもいい」と言っている。
いわゆる「グローバル・ジハーディスト」と言いますか、国際社会が一番警戒しているタイプの人とですから、よっぽど凝り固まった人なのかなと思ったら「ドイツの出身だからドイツ人とは戦いたくない」いうことを言ったり、「アメリカ人を敵だとも思っていません」とか、意外に穏健と言うか、ヨーロッパの常識を持っているのかなとも思ったりしました。

藤本 さん
うーん...。

グッチ裕三 さん
僕たちが知らない根深い問題があるんじゃないですかね?

常岡 さん
日本の僕らが持っている常識と、中東世界、イスラム教徒の持っている常識の間にものすごく大きな隔たりを、行くたびに感じますね。

小野 アナウンサー
"ジハード"というものがひとつ分からないんですけど?

池内 さん
歴史を見るとイスラム教は軍事的な"ジハード"を通じて広がったということは、客観的な事実なんですね。
コーランという教典にも、"ジハード"がいっぱい書いてあるから、かなりの部分それは戦いなわけです。
ただ、「戦争が正しい」と言っているわけではなくて、「正しい戦争は正しい」、つまり「正しい目的のための戦争は正しい」と言っている。

小野 アナウンサー
イスラム教徒の大多数の人は、"ジハード"をどう解釈しているんですか?

池内 さん
大多数の人は「場合によっては戦争なども含む、あらゆる努力」ですね。
イスラム教が最終的に世界に広がって、イスラム教徒の秩序が保たれる。そういう世界を作る。そのためのあらゆる努力は"ジハード"であると。
そこで必要とあれば戦争も辞さないという考えは、ほぼ共通しているんですね。
ただ、実際に戦争に行きますか?ということになると、大多数の人は、いや、他の人がやっているからいいと、そういう感じになるんですね。

小野 アナウンサー
勉強するとかそういうものも"ジハード"なんですか?

池内 さん
そういうものも、拡大解釈すると"ジハード"であると。時代が下るにつれてイスラム世界も広がってずっと戦争をしている必要もない。
あるいは近代国家ができて、国際法のルールがある。宗教を広めるために戦争するのは良くないというルールがあるわけですね。
そうすると、そこに従って、なるべくこれからは"ジハード"といっても勉強するとか経済発展するという方向でやっていきましょうと。
そういう考え方は近代になってから広まったんですね。

小野 アナウンサー
そういう文化の中で育ってきた人が、なぜ"イスラム国"に行って武器を取って戦おうと思うのか、心情的によく分からないです。

池内 さん
「今ある近代国家の国境はダメだ」という考え方は、特にアラブ世界に強かった。
イラクとかシリアとか、今"イスラム国"に脅かされている国であっても、政府が教科書で教えるときにそういうことを教えてきた。
本来あるべきアラブ世界、ひとつのアラブ世界を。近代にヨーロッパ人が来て勝手に切り分けた、ヨーロッパが悪いんだ、と教えてきているんですね。
ただ、イラクであれシリアであれ、こういう勢力が出てきて「じゃあ、今ある国境をなくしましょう」と言うとやはり反対する。
人々に教えてきた理念があって、それなりに意味はあるのだけれども、同時に、第一次世界大戦からちょうど100年、そのときにできた秩序は100年定着しているという現実もあるんですね。

出川 解説委員
世界にイスラム教徒は16億人ぐらいいると言われています。
ヨーロッパにもイスラム教徒はたくさん暮らしているけれども、キリスト教が主流の社会で、教育の面でも就職の面でも不遇な思いをしている人たちが多い。
同時多発テロみたいなことが起きると、イスラム教徒ということで差別される。
一生懸命努力しても報われない、と絶望感みたいなものを感じるわけです。将来に展望がないと。
そうするとここで人生をリセットして"イスラム国"に入って、不公正で理不尽な世の中を暴力によって一気に変えてしまおう、と解決を求めてしまう。
しかも、お金が支給されますから生活が保障される。

常岡 さん
ヨーロッパから来た戦闘員が「民主主義だけは受け入れない」という言い方をしていて、民主主義を知っている人たちが否定している。移民でイスラム教徒、というように少数派である人たちが「結局、民主主義というのは多数派がなんでも取ってしまって、われわれ日陰者は、多数派のおこぼれに預かって生きているだけの存在でしかない。そんなものは人間のあるべき姿ではない。」とか。
あるいは、法律というもの自体を「これは人定法である。人間が人間を支配する、抑えつけるための法律でしかない。 それがヨーロッパの民主主義であって、われわれはそれを拒否して、神が人間に与えた法だけに従う。」という言い方をしていましたね。

出川 解説委員
国境にしても法律にしても秩序にしても、西欧が作ったものに対する強い激しい反発みたいなものがあって、そこではやっぱり自分たちはまっとうに生きていけないんだと。

池内 さん
ただ、ちょっと考えなければいけないのは、例えば中東の国とヨーロッパを見てみると、今でもはっきり言えば過半数の人たちがヨーロッパに移民したいと思っています。
そちらのほうが生活水準がいいし、福祉があるし、自由もあると。
ですから、必死に勉強をして、なんとかビザを取って、ヨーロッパに行こうとするわけです。
今でも人の流れはヨーロッパに向かっている。それを忘れてはいけないと思うんです。
ところが実際にヨーロッパ社会に定着して、二代目三代目になってみると、今度は福祉や自由があっても、自分が幸せだと思えないという人が非常にたくさんいるわけですね。ほんの一定の割合ですが。

小野 アナウンサー
定着したいと思う人たちを受け入れる側に、何か原因を作っているものがあるのであれば、それは知りたいなと思うんです。

池内 さん
その議論はもう20年ぐらい行われてきて、もちろん今でも社会的な差別はありますが、かなり改善されてきているんですね。
イギリスのポップグループのアイドルなんて、パキスタン系の人が人気だったり、フランスでも「もう私は同化して非常に幸せです」と言う人たちがたくさんいるわけです。
ですから、次の段階にきているんですね。
皆さんヨーロッパにいてもそんなに差別は感じないけれども、しかし目的意識は持てない。むしろヨーロッパに共通の問題ですね。
ヨーロッパは宗教をなるべく政治や社会から排除して個人の問題にした。
「何が幸せか?」というのは、まさに自由。個人次第。外から「あなたはこうすれば幸せです」ということを与えてくれない社会なわけです。

藤本 さん
ああ、そうか。自分で見つけなきゃいけないんですね。

池内 さん
いや、そのときにむしろ「イスラム教を信じて、"ジハード"をすれば幸せになれるんだ」と言ってもらえると安心する人が、一定数いるわけですね。
シリアでアサド政権が"たる爆弾"なんていうものを使って、市場をバーンと爆破する。
子どもが死んだ映像が出てくる。報道はしませんけれども、実際にはインターネットでみんな見ているんですよね。
それを見て憤るわけです。これに対して千人に一人ぐらいの人が"イスラム国"として戦うのは正しい、理屈が合っている、と。

小野 アナウンサー
合ってるんですか?イスラムの教えでは残虐な行為は許されているんですか?

池内 さん
もちろん残虐な行為は許されていないです。ただ、まさに「正しい目的のために戦うことは正しい」と。
何が正しいかということは個人によって判断が分かれるわけです。
ですから見解の相違になってしまって話が通じない。

グッチ裕三 さん
処刑の場面を見せて、それで気が済むというのも変ですよね?

出川 解説委員
"イスラム国"の支配の仕方の特徴として、人々の「恐怖心」に訴える。それで従わせるという部分が非常に強いと思います。
イスラム教徒に対しても、異教徒に対しても。例えばイギリス人、アメリカ人の首をはねて殺害するシーンをわざわざインターネットに載せて、それによってアメリカやイギリスから空爆を受けないように抑止力として使う。

小野 アナウンサー
逆じゃないんですか?あんな映像を見たら、みんな怒って"イスラム国"をやっつけようという気になるんじゃないですか?

出川 解説委員
人質を何人も抱えていますから。一人殺し、二人殺し。空爆してくれば、三人目も四人目も殺すぞと。
そういう使い方をするわけですよ。

池内 さん
「目には目を、歯には歯を」なんていう非常に昔から言われている言葉がありまして。
やったら痛い目にあうぞと思ったら人間はやめるんだ、という考えは大昔からありますよね。
同時に近代的な考え方は、それとはまた違った形で人々をいい方向に導こうとするわけですが。

常岡 さん
ただ、今回"イスラム国"に僕一人で行ったのではなくて、同志社大の客員教授の中田先生という人に来てもらったんですけれども。
司令官クラスの人たちに聞き取りをしても、イスラム法に対する知識がかなりあやふやであると。
中田先生は「少なくとも遺体を損壊したり、首を切って並べたりは、明らかにイスラム法に反する行為で、それをなぜやっているのか?おかしい。」ということを言って、直接その司令官クラスに「あれはやめるべきだ」と批判までされていたんですけどね。
統治機構の中に評議会があるとありますけど、イスラム法をしっかりと守るというシステムは、今の"イスラム国"にはないんじゃないのか。
最近報道されたことでは、サダム・フセイン政権の残党が最高指導者のバグダディの周辺を固めていると。
恐怖で人々を従わせるというやり方にしても、フセイン時代のやり方にやたら似ているとかですね。
もうひとつは、われわれが"イスラム国"の中で行動するときに、上からの連絡をひたすら待つんですけれども、こちらからのフィードバックが全然上にいかない。司令官が自分の上司の連絡すらいかないとかですね。
極端な官僚体制の弊害みたいなものが見える感じになっていました。

出川 解説委員
今のお話に関連して言うと、イラクは11年前に戦争があったわけですけれども、そのイラク戦争の結果、サダム・フセイン政権を倒してアメリカ主導で民主化を進めてきた。
その民主化のプロセスが実はうまくいかなかったことが大きかったと思うんですよ。

イラクはシーア派の人口が多いんですね。アラブ人のシーア派が全体の6割ぐらい。アラブ人のスンニ派が2割ぐらいしかいない。あと、クルド人が2割ぐらい。
そうすると選挙をやった場合、民主主義の経験がないですから、人口比で議席が決まっちゃうんですよ。
6割いるシーア派は、何回やっても選挙で勝っちゃうわけです。シーア派主導の政権ができる。
マリキ首相という人が8年間首相やりましたけど、何をやったかというと、シーア派を優遇する。偏重する。スンニ派は冷遇され、排除されてしまう。
そうすると、この人たちはもう何回選挙やっても浮かばれないわけですね。
国づくりにまともに参加できない。石油の資源の富も分け前が少ない。
そうすると不満を持った人たちがマリキ政権を倒したいと思うのですけれども、「"イスラム国"というのが入ってきた、それに乗っかってしまえ」と。
シーア派主導の政権を倒すチャンスだと思って"イスラム国"に協力してしまうんですね。
サダム・フセイン時代の残党、それから旧軍人とか。軍人がいっぱい入っているから戦い方を知っている。武器の扱い方を知っている。
だから一気に攻めてきて、モスルとかを占拠してしまう。
有象無象いろんな連中が集まって来ているということです。

小野 アナウンサー
こんなご意見がきています。
「なぜ"イスラム国"を止められないのか疑問です。どうすれば解決に向かうのでしょうか?」

グッチ裕三 さん
心配なのは、国際的な戦争になるんですか、こういうのは?

小野 アナウンサー
そこですよね。それについては、このプレゼンをご覧いただいてから話し合いましょう。


プレゼンテーション②

中山 アナウンサー
今、世界中が"イスラム国"の脅威に立ち向かおうとしております。

今週月曜日には30近くの国が集ってパリで国際会議。
昨日も国連で話し合いが行われたりしているんです。
各国、"イスラム国"を壊滅しないといけないという考えでは一致しております。
ただ、具体的にどう倒すのか?というところで、足並みがそろっていないようなんです。

まず、アメリカ。イラクの上空に限って、先月から空爆を行っているんです。
でも、"イスラム国"に対する打撃としては、イラク上空だけだと非常に難しい点がある。
というのも、"イスラム国"の戦闘員は、シリアに逃げてしまう。
そこで、今月の10日にアメリカはこんな方針を表明しました。

アメリカは「"イスラム国"の脅威は、全世界の脅威。他の国もシリアへの空爆に協力してくださいよ。」と思った。
では、他の国がどうか?

イギリス。NGOの活動家が処刑されたこともあって、国内では「"イスラム国"を倒すべきだ」という声が非常に強まっているんです。
ただ、一方でこんな思いがあります。

イラク戦争の悪夢を繰り返したくない...。
イギリスは11年前、アメリカと共にイラク戦争に参戦した国です。そこで多くの兵士の命が失われた。
だから、他国に軍隊を出すということに今、非常に慎重になっているんです。

シリアのお隣のトルコはどうなのか?こちらも...。

トルコは外交官など50人近くが"イスラム国"に人質にとられていて、アメリカに協力したくてもできない。
「トルコ国内の基地を貸してほしい」とアメリカが言ったんですが、拒否したんです。
"イスラム国"国の一部を制圧されてしまっている二つの国はどうなのか?

もうお話があったように、イラクは非常に内政が混乱した状態。だから"イスラム国"を倒すどころじゃない。
シリアはシリアで、内戦中です。

シリア政府は、反政府勢力と3年以上争いを続けていて、"イスラム国"に対処する余力がないんですね。
だから「なんとか助けてもらいたい」と思っているんですけれども、他の国、サウジアラビアはこう思っています。

小野 アナウンサー
あらっ?

中山 アナウンサー
実は、サウジアラビアはスンニ派の国なんですね。
シリア政府見てください。シーア派系。だから、協力しないんです。

一方、シーア派のイランはどうか?こんなことを言っています。

藤本 さん
えーっ?

中山 アナウンサー
イランとアメリカって、30年以上犬猿の仲になっているんですよ。

出川 解説委員
アメリカ大使館占拠事件で外交官が444日人質になったという事件がありました。
不倶戴天の関係なんですね。

中山 アナウンサー
イランと仲のいいロシアは、こんなことを言っております。

「アメリカよ、もし空爆をシリアで行うなら、シリア政府の許可をしっかり得た上で行わないとダメだぞ。シリアの許可がなければそれは侵略行為である」と言っているんです。
でも、アメリカはアメリカで、シリア政府から許可は得たくない。
内戦を続けてきたシリア政府を、非常に強く非難し続けてきたからです。

こうして足並みがそろわない中、アメリカが空爆拡大表明を行って10日が経ち、今もシリアへの空爆は行われていません。ただし、その間もイスラム国は拡大を続けているという状況なんです。

小野 アナウンサー
このまま放っておくと、どうなるんですかね?

池内 さん
非常に大きな産油国で、非常に重要な国であるイラクが、特に首都バグダッドとか、北部のアルビルというクルド人の勢力の首都が"イスラム国"に制圧されると、もうほとんど奪い返すことが不可能になって、今すぐではなくても、10年、20年、30年経って国際的に仕方ないから承認するということになりかねない。
そういう意味で、今アメリカを中心に軍事行動で彼らの拡大を阻止することは、恐らくやむをえない処置なんだと思います。

出川 解説委員
アメリカのオバマ大統領は、「もうイラクから撤退します。イラク戦争を終結させます。」という公約をして支持されて大統領になった。
実際2011年にイラクから軍をすべて撤退させました。ここへきて、アルビルが"イスラム国"によって攻め込まれそうになった。そこにはアメリカの領事館もあるし企業関係者もいる。
アメリカの権益が脅かされている。もうお尻に火が点いたようなかたちで、やむなく空爆に踏み切った。
でも、それだけではどうもらちが明かない。武装勢力はシリアにも逃げて行ってしまう。
だからシリア領内にまた空爆を拡大せざるをえない。と、どんどん深みに入り始めているわけですね。

小野 アナウンサー
じゃあ、シリア国内での空爆は多分なされると見ていらっしゃる?

池内 さん
恐らく近日中に始まると思います。ただし、アメリカはかつて過去20数年間、どちらかというとアメリカ側がひとつの超大国で、中東全体を支配しながら安定させるという役割を担ってきたんですが、もうやりたくないと表明しているんです。
アメリカは、アメリカ人の犠牲をほとんど出ないような空爆をやるだけで、あとは現地の勢力がやってくださいと。
ただし現地勢力の足並みがそろわないので、うまくいかない。そうするとちょっとずつ軍事行動の深みにはまっていく。今そういう状況ですね。
特にシリアに空爆を広げるというのは、恐らくあまりアメリカはやりたくないんですね。
シリアには特にアメリカの利益はない。イラクは非常に大きな国益がかかっているから、守りたい。
しかし、イラクを守るためには、どうもシリアの方に国境を越えて"イスラム国"の勢力を駆逐しないと、シリアに逃げてまた戻って来る。

小野 アナウンサー
「戦って屈服させるより、彼らの戦う力、武器を奪ったほうがいいのでは?」つまり「武器供給のルートを絶つ」というご意見がきていますが?

常岡 さん
"イスラム国"は外国から組織的に支援を受けているのではなくて、ほとんどが都市をまるごと征服して、そこに置いてあった武器を基地ごと奪い取って武器を得ています。
外からの供給というよりも、内側のものを手に入れています。

小野 アナウンサー
「資金源を断ちきって、揺さぶりをかけておこなったらどうか?」という声も。

常岡 さん
油田を占領したりして、最初から資金源を彼らが持っている状態ですから。
油田から密輸される油のルートを絶つことは可能でしょうけれども、やはり外から得ている資金を絶つという問題ではない。

池内 さん
いま石油価格が1バレル100ドルなんて言いますけど、石油の密輸というのは1バレルは40ドルとか25ドル、つまり半額、4分の1ぐらいで売る。
するとどこかに買う人がいるんですよね。それで市場に出てしまう。

常岡 さん
トルコに密輸しているのを見かけました。
ポリタンクをいっぱい連ねて、川をいかだで渡している。

池内 さん
原始的ですね。もうちょっとちゃんとしている場合は、大きなトラック、タンカーで行くんですけど。

出川 解説委員
もちろん空爆といった作戦は必要なんだけれども、同時に戦闘員がこれ以上"イスラム国"に入って行かないようにする。
あるいは資金の流れを絶つ。武器の流れを絶つ。これはどうしても必要です。
それを実現するためには、イラク、シリアの周辺国もふくめて、包囲網を国際的につくっていかないとダメ。そうしないと解決しません。
それから、イラクもシリアも政治がうまくいっていない。この政治がうまくいくよう、正常化するよう仕向けていかないと。
無秩序状態のところにこういう武装勢力が入って来るわけですから。
だから非常に取り組みが深くて、しかも長い時間かかってしまうんですね。

小野 アナウンサー
日本にできることってあるんでしょうか?

グッチ裕三 さん
あと、日本は被害を受けるのかどうか?

常岡 さん
今までのあらゆるアフガニスタンの問題、イラクの問題に関しても、恐らく世界主要国で日本はイスラム関係のテロのリスクが一番低いところであり続けた。
アフガニスタンのタリバンにしても、イラクの武装勢力にしても、直接ほとんど日本を敵視してこなかったというのがあって、今の"イスラム国"にしても、日本人が一人、人質になっているんですけれど、彼は生きていると。
そもそも僕が今回"イスラム国"に行ったのが、"イスラム国"側から「彼についてはいきなり殺したり身代金をとったりするんじゃなくて、ちゃんと丁重に扱いたいと思っているので、通訳者とそれをちゃんと記録するジャーナリストを呼びたい」ということで。

小野 アナウンサー
それぐらい悪い印象を持たれていないのであれば、日本にできることって何でしょう?

出川 解説委員
軍事作戦に協力していくということではなくて、もっと日本ができることはいっぱいある。
例えば人道支援。イラクとシリアから何百万人も難民が出ていて、命の危険にさらされているわけです。
その人たちを守ってあげるということはとても大事です。
それからもうひとつは、最初に話をしましたけれども、なぜイスラム国に戦闘員が入って来るのか?みんなそれぞれの国で不遇な思いをしている。国づくりがうまくいっていない。
それを日本の知恵、例えば教育の力、科学の力、文化の力で支えていく。
それはシリアとイラクについてもそうだし、集まってくるもとの国でもそうなんですけれども。

小野 アナウンサー
少なくともいま日本で暮らしているイスラム教徒の人たちを孤独のふちに追いやらない。

出川 解説委員
そう。彼らが差別されるようなことであっては、日本はいけないということですね。

池内 さん
ただ、"イスラム国"に入って来る戦闘員の大多数は、ヨルダンとかモロッコとかチュニジアとかサウジアラビアから来ているんですね。
欧米の人たちは100人といった数ですから、実はそんな大したことないんですけど、欧米の人たちは彼らが戻って来てテロをやるんじゃないかと、実際そういった事例もすでに出ているので、気にしているんですね。
われわれはその報道を見てしまうんですけど、実際は近隣諸国から何千人も来ているんですね。

常岡 さん
先進国が考える、戻って来てテロをやるというケースに関しては、パキスタンに潜伏中のアルカイダは「アメリカを攻撃しよう、どこを攻撃しよう」と指令を出し続けていて、実際に人間に爆薬を持たせて飛行機に乗せたりということもやっているわけなんですが。
"イスラム国"に関しては、世界の過激派組織の中でもアメリカを攻撃することにほとんど関心を持っていないのが特徴とも言われるんですよね。
アメリカが攻撃を始めてしまったということは、今まで敵意を持っていなかったものを、わざわざ敵意を作り出してしまったのではないかと思います。

小野 アナウンサー
そういうふうにも見るんですか。
うーん、この問題は、今すぐに何かできるとは...

常岡 さん
時間がかかる。

出川 解説委員
粘り強く、しかも国際的な包囲網を築いて、みんなで一体になって取り組んでいかないと解決できないですね。
手遅れにならないうちにやらないといけない。

常岡 さん
僕はもう手遅れだと思っています。

小野 アナウンサー
厳しいご意見!今日はどうもありがとうございました。

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