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『新人ヘッドコーチ スティーブ・カーが握る首位ウォーリアーズの行方』

高橋 香代
2015年2月25日
     著者の高橋 香代さん
レギュラーシーズン後半戦へ突入したNBA。
ここからプレーオフに向け各チーム追い込みを迎える。
ここまでのところ目を見張るのは、ゴールデンステート・ウォーリアーズの躍進だ。
現地2月22日現在、西カンファレンスの首位に立ち、リーグで唯一の勝率8割台をキープ。
ウォーリアーズが最後にNBAファイナルに進出したのは40年前の1974~75年シーズン。
このシーズンはファイナルを制覇し、NBAのトップに立ったが、その後は長い低迷期に入る。
ファイナルを制した後の39シーズンで勝ち越したのは13回しかない。

このドアマットチームとまで呼ばれた今季のウォーリアーズの強さの要因はどこにあるのか。
選手も昨季とあまり変わらない状況の中で、大きな変化をあげるとすれば、今季から就任したコーチ歴をまったく持たないスティーブ・カーヘッドコーチ(HC)の存在だろう。
先日のオールスターゲームでも、新人コーチながら西軍のヘッドコーチを務めるなど、今、注目のHCの一人である。

カーHCはベイルート生まれ、今年で50歳を迎える。
幼少時代には中東の国々を転々として育ったという。
バスケットを始めたのはエジプトの高校からである。
その後、アメリカの大学に入り頭角を現しNBAへ。
現役時代はガードでスリーポイントシューターとして活躍。
彼が残したシーズンスリーポイントシュート成功率5割2分4厘(1994~95シーズン)、さらに生涯通算スリーポイントシュート成功率4割5分4厘は、NBA1位の記録として破られていない。
チャンピオンリングは5個持っている。(マイケル・ジョーダンらとシカゴ・ブルズ時代に3個、西の名門サンアントニオ・スパーズ時代に2個)
控えのガードとしての印象が強いが、数々の修羅場で劇的なシュートをいくつも決め、5個のチャンピオンリングの獲得に大いに貢献したまさに「経験と記録」の両方を兼ね備えた選手であった。

カーHCのバスケットボールの哲学はとてもシンプルだ。
1つ目は個人の成績は気にしない非利己的なバスケットボールだ。
カーHCは自身のほとんどのキャリアをスターターではなく控え選手として過ごしてきた。
だからこそ、控え選手の大切さを誰よりも良く理解していると言えるだろう。
「我がチームには才能に恵まれたアンセルフィッシュな(わがままではない)選手ばかりがそろっている。チームの中でキーとなる選手を一人だけあげることはできない。うちのチームはスターターから控え選手まで全員がキープレーヤーだ。誰一人が欠けても今の好調さを維持することはできない」

2つ目はウォーリアーズの選手たちの特性を生かしたかプレースタイル「ボールムーブメント」をとっていることだ。
これはカーHCが現役時代にプレーしたブルズのフィル・ジャクソン元HCの戦法「トライアングルオフェンス」からきている。
このオフェンスはコート上にいる5人の選手全員の協力のもと、パスとスクリーンを多用することで、相手に防御の的を絞らせず、効率的に得点するシステムだ。
その結果、ウォーリアーズの1試合平均のパス回数は、昨季リーグ最少だったが今季は314・6(リーグ8位)で68・8回も増えた。
チームアシスト数もリーグ1位。
より早くパスをまわすことで相手をボールの動きに集中させ、くぎづけにすることができる。
ステフィン・カリーとクレイ・トンプソンというリーグでも最強のガードコンビを擁しているだけに、この戦法はまさに適しているといえよう。

さらに、ウォーリアーズの真の強さはディフェンスにある。
相手チームのフィールドゴールパーセンテージはNBA1位の42・1%に抑えていることからも、ディフェンス力の強さが分かる。
そのディフェンスの鍵がセンターのアンドリュー・ボーガットだ。
彼はセンターとしては非常に高いハンドリング技術とパスセンスを兼ね備えているオールラウンドプレーヤーだ。

カーHCもこう言う「好調な今のチームを支えているという意味で特筆すべき選手名を一人だけ挙げてほしい、って?・・・うーん、それは難しいけど強いて挙げるならボーガットだ。彼は私の理想とするアンセルフィッシュな選手の代表格だ。彼は常にチームプレーに徹している。彼がゴール下にどっしり構えているので、オフェンスでもディフェンスでもチームメートたちは安心してプレーに集中することができる」
ボーガットも「自分の成績は全く気にしない。自分はどんな状況でもチームプレーに徹し、勝利に貢献するだけ」と謙虚だ。 
カーHCが理想とするバスケットを理解しているボーガットこそが真のカーHCの申し子と言えるだろう。

そんな前途洋々なウォーリアーズだが、シーズン後半に突入した今、課題がある。
選手のけがの心配だ。
エースのカリーは2011~12年シーズンで度重なる右足首の故障でシーズンを棒に振っている。
右足首の状態は100%完治したとは言い難く、今後も注意をしながらのプレーになっていくだろう。
さらに今季シックスマンとして欠かせないアンドレ・イグドラだが、ここ4シーズンけがによりたびたび欠場するなど不安定である。
そして最も心配なのはボーガットだ。
左足首の骨折、背中や膝の故障を抱え、ここ3シーズンで実に135試合も欠場している。

カーHCは「シーズン終盤に向けて、各選手の健康状態を管理するのと同時に、今まで以上に選手全員がお互いをカバーしながら戦っていくことになるだろう」と語る。

選手たちの体調管理がウォーリアーズの今後の成功の鍵となるのは言うまでもなく、彼らが今の体調をシーズン終了まで維持することができれば、40年ぶりファイナル進出も夢ではなくなるだろう。

著者プロフィール

【著者】高橋 香代
北海道出身。99年TBSの人気番組「NBA Mania」のパーソナリティを務めて以来、NBAの魅力にすっかりはまってしまった。以後、日本とアメリカを行き来しながら現場に足を運ぶ。