1. スポーツオンライン トップ >
  2. コラム

ラム

- MLB

「日本人の投球スタイル」

長谷川 滋利
2014年8月1日
著者の長谷川 滋利さん
日本では日本ハムの大谷翔平投手が甲子園球場で行われたオールスターゲームの第2戦(7月19日)で先発し、球宴新記録となる162キロをマークしました。
公式戦ではないので、参考記録としてしか扱われませんが、それでも公式記録としては2008年にマーク・クルーン投手(巨人)が公式戦で出した162キロが最速だったので、それに並ぶすばらしい記録だと思います。
また、テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手が7月18日のブルージェイズ戦で、今シーズン6回目の2桁奪三振となる12奪三振を記録しました。
2桁奪三振は2012年にメジャーリーグに移籍した後の2シーズン半で26回目となります。
昨シーズンは277個の三振を奪い、奪三振王にも輝きましたが、今シーズンもそれに続きそうな勢いです。
日米で投手の記録が話題になったことですし、今回は投手の投球スタイルについて解説したいと思います。

速球をなげるということ

これを言ってしまっては元も子もないのですが、選手によっては先天的に持っている能力というのは絶対的にあると思います。 
身長や足の長さなど、体格も当然身体能力として関係してきますし、持って生まれた身体のバネも必須です。
そういった意味では大谷選手は手も足も長く、身体も大きいですし、むちのようにしなるように投げていますから、あれは天性のものでしょう。
見習いたくても容易にまねできるものではありません。
ただ、今は何かと研究も進んでいて、投球の際に歩幅を大きくした方がいいとか、筋力を強化するトレーニングによって速球が投げられるようになるなどの結果が出てきています。 
実際に私自身も過去に筋力トレーニングによって3~4マイルほど速く投げられるようになりました。 
これは新聞で読んだのですが、ダルビッシュ投手は球を速くするために背中と足だけを集中して鍛えているそうです。 
基本的にメジャーリーグでは、全身の筋肉をバランス良く整えて、全体の筋力を高めてスピードアップを図りましょうということは度々言われていたことです。 
トレーニングで筋力アップをしても関節はそれとは同じように強くならないから厳しいところもあります。 
もちろん食べ物とかサプリメントをとって筋力強化をすることはできるでしょうが、限界がありますよね。 
また、速球をバンバン投げられる投手は配球をあまり考えなくても力で打者を抑えることができる反面、故障につながりやすいという難点があります。
腕を早く振れば振るほど関節が弱まって傷つきやすくなるのは避けられないからです。 
一方、130~140キロ台の球を投げる投手は、球速がスローな分、簡単に打たれないように球筋を考えて投げるので、色んな持ち球があり、息の長い投手になる傾向が強いと僕は思います。

速球を投げて力でねじ伏せるような投球だと打者を抑える確立は高いでしょうが、反発力も働きますので、打たれた時は遠くに飛ばされやすくなります。
だから昨今のメジャーリーグ界では速い球にツーシームやカッターといった変化を加え、ちょっとだけ移動するような高速変化球(moving fast ball)をうまく使い分けるのがはやっています。
また、ダルビッシュ投手の他、現役中に奪三振王に11回も輝いたノーラン・ライアン投手など、三振を多く奪う投手がもてはやされ、そこにメジャーリーグのだいご味があることは事実ですが、実は20年ほど前から投球スタイルのトレンドにも少しずつ変化が現れています。 
テキサス・レンジャーズでGM補佐兼スペシャル・アシスタントを務める元メジャーリーグ投手のグレッグ・マダックス氏が「投手ができる最高の仕事は27球で27アウトを取ること」を提唱しています。
つまり、投手の肩が消耗品だという理解が広まってきた現在、比例して投球数を減らして選手生命を長く保持しようという傾向が強まってきています。 
もちろんいまだに奪三振数が注目されて、そのため肩を酷使して故障してしまう投手が多いのもまた事実です。
しかし、最近は技巧派の投手が三振を狙うよりも、打者を1球で仕留めるスタイルが浸透してきています。
それは打たせてアウトを取る方法なのですが、良い当たりだとヒットになってしまうので、空振りを取りにいくのではなく、いかに詰まらせて打ち取るかというのがポイントです。
こういった時代ですから、投手たちは岐路に立たされているのかもしれません。 
今はさまざまな投球法や理論が存在しているので、その辺が面白いところでもあり、投手としては自分が今後どの役割を求められているのかと頭を悩ますところでもあります。
また、個人的にはこれだけ皆が速い球を投げられるようになってきたので、これからは逆にスローボールを投げる投手が重宝されるようになるのではないかと予想しています。

日本人投手のスタイルと成功の鍵

先日、肘のじん帯を痛めてしまいましたが、今季メジャーリーグ初挑戦ながらすばらしい活躍を見せた田中将大投手やダルビッシュ投手を筆頭に、日本人投手陣が活躍しているのは、メジャーの流れと違うことをしているからだと思います。
日本ではまだまだ数多く三振を奪う投手に対しての評価の方が高いですよね。
実際に彼らは速い球を投げてそれを見せ球にしつつも変化球で抑えるというピッチングスタイルです。
それが今メジャーで活躍している日本人投手特有の投げ方ですよね。
例外としてはヤンキースの黒田博樹投手で、彼は少ない投球数と力で抑えるピッチングをしていますね。
アメリカ式の投球法で、メジャーに一番フィットしている日本人投手だと僕は思っています。
ただ、日本人に好まれるタイプとは違うせいか、日本のメディアにはあまり取り上げられていないようですが、こちらだと案外人気が高い選手だと思います。 
以前にも言いましたが、メジャーリーグはシーズン162試合もあるので、先発ピッチャーで一番大切なのは多くのイニングに登板すること。
それができるのは黒田投手の投げ方だと思います。
ダルビッシュ投手は球数が増えても投げ切ることができているのでいいのですが、基本的に彼のようなピッチングは誰もができるわけではありません。
あれだけ球を散らして、空振りを奪って9回まで100球で抑えるって、なかなかできない芸当です。
黒田投手は打たれる時もありますが、100球程度で投げきることもできます。 
少ない球数でどれだけイニングを投げ抜くか、それが今メジャーでは求められてきているので、投手の選手生命を重視してきているあらわれでしょう。

彼らは日本でももちろん一流の投手として成功しましたが、こちらでも日本でプレーしていた時と同様の投げ方をしていたとしたら、今と同じように第一線で活躍できたのかというと、僕はその答えはノーだと思います。
彼らに共通しているのはとても頭の良い投手だということ。
皆さんも見ていてわかると思いますが、かなりピッチングスタイルも変わってきていますし、その時々の状況に合わせてどう投げたらいいかが良くわかっています。
ただ単に球が速いだけで、そのボールしか投げられない投手はどうしても相手ありきになってしまいます。
打者との駆け引きができないわけです。 
ですから、速い球が投げられるか、投げられないかということは別に、最終的には頭を使って考えることができる投手が一番強く、長く活躍するのだと思います。
そして適応能力がとても高く、分析能力が高いのも特徴の1つでしょう。
今は多種多様なデータが充実していますから、僕らの時代では日本からアメリカ式にアジャストするのに1~2年はかかっていたことを、彼らは数か月でやってのけていますから、大したものです。ダルビッシュ投手に関して言えば、昨シーズンと同じように三振を取っていても、彼自身が納得のいくピッチングができていないんじゃないかなと思います。
打者も研究して勝負を挑んでくるのですから、去年より良い当たりをされるようになったのかもしれません。
でも彼のことですから、対処法を考えてまた1つ上のレベルに上がっていくのでしょうし、その能力が充分にある投手だと思います。
あのまま日本にいたらお山の大将になってしまって伸びるものも伸びなかったかもしれませんから…。
そう考えると本当にメジャーリーグに挑戦して良かった選手だなあと思います。 

ピッチングスタイルにも流行があったり、良い投手とは何かという評価の方法も変わってきますが、適応能力と頭の良さで長い間ファンを楽しませてくれる投手であってほしいと思います。




著者プロフィール

【著者】長谷川 滋利(はせがわ しげとし)
1990年にドラフト一位でオリックスに入団。1997年からは9年間メジャーで活躍。
現在はアメリカ在住。15年間にわたった日米での選手経験を活かし、
自身のホームページを通じて、野球評論など行うかたわら、
少年野球やトレーニングの方法を指導している。