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「西部地区のダークホース、ロケッツとウォーリアーズが好調な理由」

北舘 洋一郎
2013年1月10日
著者の北館洋一郎さん
開幕前、誰も予測しなかった2チームが勝率6割(1月9日現在)をたたき出し、台風の目となっている。
ヒューストン・ロケッツとゴールデンステイト・ウォーリアーズだ。
両チームとにも開幕してすぐは調子を出せずにいたが、12月に入ると一気にチーム力がまとまり、若いチームらしくアグレッシブなオフェンスが機能しはじめた。
この核となる選手がロケッツのジェームズ・ハーデンとウォーリアーズのステフィン・カリーだ。
2人ともにキャリア4年目をむかえ、NBAのライジングサン筆頭といえる。

まずはハーデンだが、今シーズン、ロケッツに移籍してきた。
3シーズンを過ごしたオクラホマシティー・サンダーではケビン・デュラントとラッセル・ウェストブルックの陰に隠れ、伸び盛りの成長を表現するのに十分なプレイングタイムをもらうことができていなかった。
また、常にベンチスタートでシックスマン的なチームでの役割も、ハーデンの将来の可能性を見いだすにはキャパシティーが狭すぎた。
ハーデンにはサンダーに残留し、ファナルでリベンジしてチャンピオンシップを手にするという選択肢もあったのだろうが、結果論かもしれないがロケッツ移籍は正解だったのではないか。
それを物語る数字がこれだ。
まずは、1試合平均38.2分をプレーし、昨シーズンよりも約7分多くプレーしているが、平均得点が16、8得点から26、6得点と飛躍的に伸ばしたことからも、いかにサンダーではハーデンの実力を使い切っていなかったのかが証明されている。
今シーズンからジェレミー・リンとオメア・アシークを獲得したものの、大方の予想は苦戦を強いられるだろうと言われたロケッツだが、最後の1ピースにハーデンが加入したことで大きく飛躍した。
その原動力はオフェンスの向上だ。
スターティングメンバー5人が平均10点台の得点を記録し、1試合平均アシストもハーデンが5.4、リンが6.3、チャンドラー・パーソンズが3.6と3人のアウトサイドプレーヤーがいかによいシュートセレクションのためにボールをまわそうと試みているかがわかる。
スターティングメンバーの平均年齢も約24歳と若く、まだまだミスも多いが、それを覆すほどの勢いでオフェンスを仕掛け続ける姿勢がロケッツを鼓舞しているといっていいだろう。

元ボストン・セルティックスのレジェンド、ケビン・マクヘイル・ヘッドコーチは言う。
「若さをフルに発揮することが大きな武器になる。チームが新体制になって1年目なのだから恐れることはない。走りまくり、シュートを数多く放ち、リバウンドに相手よりも多く跳びつく。それをシーズン通じてやることが出来ないのなら、この選手たちに来シーズンはないも同然だ。ラリー・バードだってマジック・ジョンソンもマイケル・ジョーダンも、偉大なプレーヤーはみんな20代の頃はとにかく走り回って、点を取りまくることに夢中になっていた。それでいいんだ。それを経験してから、そのあとに未来はあると選手たちにはいつも言っている」


ここ10年で、NBAでプレーする選手たちの技術は相当進歩した。スーパースターと呼ばれるクラスの選手が昔は3チームに1人ぐらいしかいなかったものだが、今では全チームにスーパースターが必ずいる時代だ。
しかし、マクヘイルの言うようにNBAでどうプレーして生き残っていくのかという精神的な心構えは今も昔も変わらないはずだ。

ハーデンは言う。
「サンダーでは勝負所でボールを3人で分け合うのが戦術だった。しかし、ロケッツでは僕がファーストオプションだ。僕が決めれば試合に勝ち、外せば試合に負ける。その責任を背負うことこそ僕がチャレンジしたかったことだ」

一方、カリーは元NBA選手の父を持つ2世NBAプレーヤーだ。
大学時代は体が小さいため、NBAでやっていけるかどうか不安視されていたが、バスケットボールIQを抜群に高めることでのし上がってきた選手だ。
ウォーリアーズのヘッドコーチ、マーク・ジャクソンは言う。
ジャクソンもまた元NBAプレーヤーでニューヨーク・ニックスやインディアナ・ペイサーズで百戦錬磨のキャリアを持つ。
「NBAには毎年、身体能力が抜群にすぐれた選手が山ほどルーキーとしてやってくるが、バスケットボールIQが抜群に優れた選手というのはそう多くない。ほとんどの選手は2、3年の経験の中でそれを養うのだが、カリーはルーキーのときから筋がよかった」

この筋がいい証拠として、カリーは1年目の1試合平均得点が17.5点、2年目も18.6点、3年目はけがで26試合しか出場できずに14.7点と落とすも、今シーズンは20.1点と着実に記録を伸ばしている。
その一番の理由はシュートセレクションのよさにある。
常に無理なシュートは打たず、状況判断をして、確率の高いシュートを狙うことが板についているのだ。
また、アシストも1年目が5.9、2年目が5.8、3年目が5.3、そして今シーズンが6.5と安した数字を残している。
プレーのクォリティーを落とさずに安定した活躍ができるというのはNBAでは大きな才能だ。

カリーが入団してから勝率5割を越えることができなかったウォーリアーズ。
チームが上昇するためのキーワードは安定した試合展開を継続するという目標設定をジャクソン・ヘッドコーチがしたことで、カリーの得意なプレースタイルとチームスタイルがシンクロすることができた。

「過去10年、ウォーリアーズの中心選手はなぜか安定感に欠く選手が務めてきた。ジェイソン・リチャードソン、バロン・デイビス、モンテ・エリスがその代表格だが、いいときは抜群なのだが、不調になるとまったく沈没する。このチームの悪しき伝統を変えて、イメージを刷新しなければいけなかった。安心感があって安定した活躍の出来る選手を前に出すこと。そこにカリーがマッチした」とジャクソン・コーチは言う。

1月に入っても勝率を66%で維持し、まだ格上との対戦が多くないが、これから手ごわい相手との戦いをどうやって勝っていくのかで6年ぶりのプレーオフ進出への光が見えてくる。

カリーは言う。
「今のところ1試合1試合が勝負だと思っている。対戦相手がどこだろうといつも同じ気持ちで試合に臨んでいるし、まだまだウォーリアーズの勝ちパターンという試合の流れが完全に生まれていないから、正直、楽に戦った試合など一度もない。完成度では40%ぐらいしかない。ほかのチームからすると、ウォーリアーズとは楽に戦えるというイメージがリーグの中にはまだあって、相手が油断している部分をまだまだ感じる。そこを逆手に取って着実に戦ったから今シーズンの今の成績があると思う。しかし、ウォーリアーズは侮れないとほかのチームが感じ始めたときでも有利に戦えるような準備を今からしっかりとしなくてはならない」

今シーズンの西部地区は今までに増して激戦で、15チーム中10チームが勝率5割以上。
おそらく上位4チームを除く8チームで、残る4スポットのプレーオフ進出への切符を争うことになる。
その中でもロケッツとウォーリアーズはシーズン中にまだまだ成長の伸びしろが多く残っている。
ハーデンとカリーの2人が毎試合勝利に大きく貢献することが大前提だが、「果敢に攻めまくるロケッツ」と「安定感と確実性を重視したウォーリアーズ」というチームカラーは二人の若き大黒柱のイメージとそのまま連動する。
おそらく、このままの体勢を継続していくことができるのなら、2~3年後にロケッツとウォーリアーズはNBAでAクラス入りできるプラットフォームを今、構築していると言っていいだろう。
シーズン後半へ向ってこの2チームの動向からは目が離せない。

著者プロフィール

【著者】北舘洋一郎(きただてよういちろう)
岩手県盛岡市生まれ。
1990年からNBAを取材し執筆活動を続ける。現在、NHKーBSでNBA解説も行う。